2012年07月05日

NPO法人の健康保険・厚生年金保険新規適用届

健康保険・厚生年金の強制適用というのは法律上は以下のようになっています。

1.法人事業所で常時従業員を使用
2.常時5人以上の従業員を使用している個人事業所

1の従業員というのは法人から労務の対償として報酬を受けている者のことで、役員であっても従業員とみなされます。

通常の会社であれば強制適用となり、会社設立時に健康保険・厚生年金保険新規適用届を、事業所の所在地を管轄する年金事務所に提出する必要があります。しかし、NPO法人の場合は、会社とは違った面があります。

NPO法人では、役員報酬を受け取る役員が1人もおらず、従業員も1人もいないという、通常の会社ではあり得ないようなことが特殊ではありません。

このような場合は、法律上は「常時従業員を使用」に該当しないため、強制適用とはならないように見えます。

NPO法人で、役員報酬を受け取る役員が1人もおらず、従業員も1人もいない場合に、健康保険・厚生年金保険の強制適用となる(健康保険・厚生年金保険新規適用届が必要)かどうか、インターネットで調べたところ、見解が分かれていました。

NPOへの法人成りについて(小野社会保険労務士事務所)
社会保険について。 NPO法人を立ち上げようと考えています。(Yahoo!知恵袋)

そのため、年金事務所に確認しました。回答は、役員報酬を受け取っている役員が1人もおらず、かつ、従業員が1人もいない場合は健康保険・厚生年金保険新規適用届の提出は不要とのことでした。

全国の相談・手続き窓口(日本年金機構)

参考にしていただければ幸いですが、ケースによっては異なる場合もありますので、できるだけ管轄の年金事務所に問い合わせることをお勧めします。
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2010年02月08日

メルマガ再開のお知らせ

長らく休止していましたメルマガ『社労士試験選択式対策〜条文穴埋め問題』を本日から再開いたしました。

社労士試験選択式対策〜条文穴埋め問題 - Office-Win.Net

週刊での配信とし、まずは労働基準法からとなります。法改正におも対応いたします。既にこちらの条文については改正後のものに変更いたしました。

出題形式が選択式から記述式に変わるのではないかという噂がありますが、正式発表がありませんのでひとまずこのまま継続いたします。
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2009年03月09日

SEにも名ばかり管理職を認定−東京地裁判決

SEにも「名ばかり管理職」 会社に残業代命じる判決(asahi.com)
ソフト会社に4500万円支払い命令 名ばかり管理職問題で東京地裁(日経ネット)
「名ばかり管理職」3人に残業代、4520万円支払い命令(読売新聞)
名ばかり管理職:ソフト開発会社に賠償命令 東京地裁(毎日jp)
残業代受け取れず「名ばかり管理職」認定(日刊スポーツ)

名ばかり管理職がシステムエンジニアにも認められました。これまでは小売業や飲食業の店長がターゲットになっていましたが、システムエンジニアに対しても認められたことで、ホワイトカラー全体に波及していきそうです。ホワイトカラーにおける名ばかり管理職は相当数いるものと思われます。多くの会社が対応を迫られることになりそうです。
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2008年06月01日

残業時間の切り捨て

ワタミがバイト217人に未払賃金を支払う(Yahoo!毎日新聞)
ワタミがバイト217人に未払賃金を支払う(Yahoo!読売新聞)

1か月の残業時間の合計に1時間未満の端数がある場合、30分未満を切り捨て、30分以上を1時間に切り上げることは認められています。

しかし、1日の残業時間の合計に1時間未満の端数がある場合には以上のような切り捨ては認められていません。1分でも残業時間として計算する必要があります。

残業時間を1日単位で切り捨てをしている会社は、たとえ1分でも労働基準法違反となります。ワタミのように労働基準監督署から労働基準法違反で是正勧告を受けることになります。ご注意ください。
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2008年02月13日

派遣と請負の違い

本日、労災事故について東京地裁で判決がありました。

しかし、正確に報道しているマスコミはごく少数です。

発注元にも賠償命じる判決(読売新聞)

派遣と請負の違いを明確にしないまま報道をしてしまっているマスコミの多さに愕然としました。

勤務先メーカーにも賠償命令(Yahoo!時事通信)
派遣社員の労災死、派遣先にも使用者責任(朝日新聞)
労災事故で死亡、派遣先に賠償命令(TBS)
派遣先の労災死で賠償 安全義務違反と東京地裁(中国新聞)

マスコミの報道を全て鵜呑みにするのは危険であるということを改めて認識しました。メディア・リテラシーというのは本当に大切なことだと思います。

メディア・リテラシーという言葉は、NHK週刊こどもニュースでも昨年取り上げられていました。

メディアリテラシーってなに?(NHK週刊こどもニュース)

メディアリテラシーも大切ですが、伝える側も内容についてもっと理解した上で報道して欲しいものです。

ここ最近全く更新していませんが、派遣と請負の違いについてはこちらをご参照ください。

「偽装請負」問題リンク集 - Office-Win.Net
posted by はくしん at 22:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 社労士関連

2008年02月04日

派遣労働者の契約打ち切り

名古屋の大手セラミックメーカーで7年近くも働いていた派遣労働者が正社員雇用を要求したところ、契約の打ち切りを宣告されたとの記事が昨日の中日新聞に掲載されていました。

労働組合側はこの大手セラミックメーカーを強烈に批判していました。

派遣労働者の言い分が全て正しいとすれば、この大手セラミックメーカーは労働基準法ならびに労働者派遣法に抵触する恐れがあります。

「名古屋 大手セラミックメーカー」でネット検索してみたところ、派遣の求人情報が多数出てきました。この記事を象徴している印象を強く持ちました。
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2008年01月28日

気になったニュース

マクドナルド訴訟で東京地裁が店長の残業代を認定(Yahoo! 毎日新聞)

「管理職の考え方は業種、会社によってまちまちだ」と日本経団連の御手洗会長が述べたようですが、この判決が確定するようなことがあれば、他の会社、特にチェーン店を展開している外食産業や小売業への影響はかなり大きいだろうと思います。控訴審も注目です。
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2007年07月06日

授産施設作業員の労基法適用有無

次の5つの条件を全て満たした授産施設の作業員は、労働基準法及び労働者災害補償保険法の適用除外となります。

1.原則として市町村長、民生委員等が保護を要する者と認める証明に基づいて、当該授産施設を利用せしめることによって生業を扶助されるものであること。

2.出欠作業時間、作業量等が作業員の自由であり、施設において指導監督をすることがないものであること。特に各作業員の作業量が予約された日に完成されなかった場合にも工賃の減額、作業品割当の停止、資格の剥奪等の制裁が科せられないものであること。なお作業に対する規格検査は、ここにいう指導監督には含まれない。

3.作業によって加工すべき品目については、作業員の技能を考慮して授産施設において割り当てるものであっても差し支えないが、同一品目の工賃は、作業員の技能により差別を設けず同額であること。(但し、受註契約において製品の仕上り状況によって工賃に差別を設けられている場合は除く)また、授産施設の場内で作業する場合と場外で作業する場合とによって工賃に差別を設けないものであること。

4.作業収入は、その全額を作業員に支払うものであること。但し授産施設において補助材料等(ボタン、糸等)を負担した時は、材料購入に要した実費を下るものでないこと。

5.授産施設の運転資金、人件費、備品費、営繕費その他の事務費、事業費又は固定資産の銷却等の経費は、当該授産施設の負担においてなされるものであること。

なお、授産施設に使用される職員、指導員等は当然労働基準法及び労働者災害補償保険法が適用されます。

(S26.10.25 基収3821号)
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2007年07月01日

偽装請負で厚労省がガイドライン

「偽装請負」問題リンク集に次の記事を追加しました。

偽装請負防止で厚労省がガイドライン(MSN 毎日新聞)

詳しいガイドラインの内容はわからないのですが、記事だけを見ると目新しい内容とは思えませんでした。発注元にも法令順守を求めている点については評価できますが、発注元の責任をもっと明確にすべきだと思います。

半年ぶりに「偽装請負」問題リンク集を更新しました。半年前には「偽装請負」とタイトルのつく書籍は1冊もなかったのですが、Amazon.co.jpで検索すると4冊もヒットしました。

偽装請負―格差社会の労働現場
偽装請負と事業主責任
偽装請負―労働者派遣と請負の知識
ワーキングプアと偽装請負
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2007年05月23日

年金支給漏れ 時効救済法提出へ

年金には時効があります。年金を5年間受け取らないと、時効となって年金を受け取ることができません。一見すると何も問題がないように見えますが・・・。

「この時効は年金を受け取る人の落ち度によるものだけではないか。」
「社会保険庁の落ち度では時効にはならないでしょう。」

と思うのが、至極自然なことだと思います。ところが、社会保険庁の落ち度によっても、時効になると年金を受け取ることができないのです。

今回与党が国会に提出しようとしているのは、これを救済するための法律です。

年金支給漏れ 時効救済法提出へ(Yahoo! News 毎日新聞)

遡及期間の拡大案浮上(Yahoo! News 時事通信)

毎日新聞の報道によると、社会保険庁の落ち度であれば何年たっても全額支給するとしています。しかし、時事通信の報道によると、期間が限定されるような表現になっています。

どのような法案が提出されるのかは不明ですが、本来は何年たっても全額支給すべきものだと思います。

社会保険庁の落ち度による支給漏れの発覚が相次いでいます。また、誰のものであるのか不明な納付記録が5,095万件もあるとのが報道なされています。至極当然のことですが、保険料を払った分については年金の全額を受け取ることができるような体制を早く築いて欲しいものです。
posted by はくしん at 22:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 社労士関連

離婚後年金分割が239件

離婚後年金分割の4月請求が293件であったことが社会保険庁の調査で明らかになりました。

離婚後年金分割 4月請求が293件(Yahoo! News 読売新聞)

離婚件数が月平均2万件ということですので、決して多い数字ではありません。離婚後年金分割はテレビで盛んに取り上げられるなどして話題になりましたが、実態としてはそれほど有利な制度ではありません。

テレビでセンセーショナルに取り上げられて、夫の年金の全部がもらえるかのような誤解をしてしまった人も多かったようですし、今でも誤解している人が多いようです。

年金分割を待って離婚を先延ばしにしていた方もいるようですが、離婚後年金分割の請求が今後増加していくのかどうか注目です。
posted by はくしん at 21:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 社労士関連

2007年02月12日

健康保険・雇用保険講座開催

今春、名古屋地区にて

『持病がある人のための健康保険・雇用保険講座』(仮称)

を開催する予定です。

健康保険や雇用保険について知らないと、損をしてしまうことが多々あります。特に持病がある方にとっては、健康保険や雇用保険はたいへん関わりの深いものです。しかし、健康保険や雇用保険について知る機会がないという方がほとんどではないかと思います。また、誤って伝えられることも少なくありません。ぜひこの機会に健康保険や雇用保険について知ってください。そして、損をすることのないようにしてください。
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2006年12月24日

「労働ビッグバン」提唱者の発言

先日、たいへん気になるニュースを見ました。

正社員待遇を非正規社員水準にすることも検討すべき
(Yahoo!News 毎日新聞)

経済財政諮問会議のメンバーであり、「労働ビッグバン」提唱者の発言です。このニュースが真実であるならば、たいへん残念なことです。労働者保護の視点がないまま経済財政諮問会議が行われていることを危惧しています。大企業が軒並み最高益を上げていながら、個人所得は上がっていません。このままだと、労働者の立場がますます弱くなっていくのではないでしょうか。


「偽装請負」問題リンク集を更新しました。
http://www.office-win.net/gisouukeoi.html
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2006年11月22日

選択式対策メルマガ

平成19年度社会保険労務士試験(社労士試験)の選択式問題対策のメールマガジンを今月創刊しましたが、購読者が150名を超えました。

http://www.office-win.net/sr_exam/ml_sentaku.html

本試験で出題されやすい条文についての選択式問題を配信しています。現在は週2回配信しておりますが、発行頻度を徐々に増やす予定です。
posted by はくしん at 23:23| Comment(0) | TrackBack(1) | 社労士関連

2006年11月08日

選択式対策メルマガ創刊

平成19年度社会保険労務士試験(社労士試験)の選択式問題対策のメールマガジンを創刊しました。

http://www.office-win.net/sr_exam/ml_sentaku.html

本試験で出題されやすい条文について選択式問題を配信します。
当初は週2回程度配信いたしますが、発行頻度を徐々に増やす予定です。

2回目の配信予定・・・11月9日(金) 17:00
3回目の配信予定・・・11月13日(月) 17:00
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2006年11月06日

昨日のテレビから

昨日、日本テレビ系列で放送された「行列のできる法律相談所」の中で、セクハラに関するものがありました。その中でH弁護士がセクハラに関する説明をされましたが、完全に誤った内容でした。

男女雇用機会均等法の第21条は次のようになっています。

「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する女性労働者の対応により当該女性労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該女性労働者の就業環境が害されることのないよう雇用管理上必要な配慮をしなければならない。」

昨日の番組では、仕事上で不利益な取扱いがなされた場合のみがセクハラにあたるかのような発言がありました。これは完全に誤っています。条文にあるように、就業環境が害されることもセクハラに該当します。すなわち、仕事上で不利益な取扱いがなされなくてもセクハラに該当するのです。

このことは、社会保険労務士にとってはごくごく基本的なものです。やはり労働関係の知識を弁護士に求めるのはあまり好ましくないように思います。労働関係の相談は弁護士ではなく社会保険労務士に聞かないといけないのだと痛切に感じました。
posted by はくしん at 20:21| Comment(0) | TrackBack(0) | 社労士関連

2006年10月29日

「偽装請負」問題で新記事

「偽装請負」問題で新たな記事が出ました。

http://www.asahi.com/special/060801/OSK200610270108.html

社員を請負会社へ出向させることによって、労働者へ指揮命令できるようにした(すなわち、「偽装請負」ではないようにした)手法です。以前には次のような記事がありました。

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK200610050092.html

違法性の有無は検討中としていましたが、社員を請負会社へ出向させることは労働者供給にあたり違法であると厚生労働省は判断したようです。

この手法は既に広がっているのではないかと思われます。

この手法は「偽装請負隠し」と言われても仕方のない手法だと思われます。抜本的な対応策が必要ですが、解決には相当な時間がかかるものと思われます。


「偽装請負」問題リンク集を更新しました。
http://www.office-win.net/gisouukeoi.html
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2006年10月24日

「偽装請負」問題を考える

神奈川労働局のHPに、「偽装請負は労働安全衛生法等の違反を問われる場合がある」という記載があることについては

2006年10月20日の「偽装請負」問題を考える

でお話しました。労働安全衛生法の第1条を見てきましたが、今回は少し違った角度で考えたいと思います。

労働安全衛生法の第1条は以下の通りでした。

「この法律は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。」

ここでは、「労働基準法と相まって」に着目してみます。

労働安全衛生法は、1972年に労働基準法から分離する形で制定されました。このとき、労働安全衛生法と労働基準法の関係を明らかにするために、次のような通達が出されました。

「労働安全衛生法は、形式的には労働基準法から分離独立したが、安全衛生に関する事項は労働者の労働条件の重要な一端を占めるものであり、労働安全衛生法と労働条件についての一般法である労働基準法とは一体としての関係に立つものである。」

これを要約してみると、

「労働安全衛生法は労働基準法から分離したが、労働基準法とは一体の関係にある。」

と言えると思います。まさしく「労働基準法と相まって」、労働安全衛生法は存在しているのです。

それでは、労働基準法について簡単にみてみます。労働基準法の第1条および第1条第2項は以下の通りです。

「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。」

「この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。」

労働基準法は、社会的経済的に見て使用者(企業)に対し弱い立場にある労働者を保護することを目的としています。すなわち、労働安全衛生法も労働者を保護することを目的としているのです。

労働安全衛生法に違反する偽装請負は、労働者が保護されない恐れがあります。労働者は企業よりも弱い立場にあります。この点を留意しなければならないと思います。

偽装請負は、労働安全衛生法だけではなく職業安定法や労働者派遣法に違反していると言われています。これらはいずれも労働法です。労働法は、労働者を保護するためにある法律です。時代に沿った法改正は必要だと思いますが、企業よりも弱者である労働者を保護する視点は常に必要なのだろう思います。



「偽装請負」問題リンク集を更新しました。
http://www.office-win.net/gisouukeoi.html
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2006年10月23日

偽装請負問題

土曜日に次のような記事が出ました。

http://news.goo.ne.jp/article/asahi/nation/K2006102004420.html

メーカにも立ち入り調査が入ったようです。クリスタル子会社だけに事業停止命令が出て、メーカには何もないというのもおかしな話だと思いますので、当然のことかもしれません。立ち入り調査後の動きにも注目しようと思います。



「偽装請負」問題リンク集を更新しました。
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2006年10月20日

「偽装請負」問題を考える

偽装請負についての議論の中で、労働者派遣法や職業安定法に違反しているというのはよく見かけます。しかし、労働安全衛生法に違反しているというのはあまり見かけません。そこで調べてみますと、神奈川労働局のHPに「労働安全衛生法等の違反を問われる場合があります」と記載されています。

http://www.kana-rou.go.jp/users/kijyun/az_haken_kaikin_aneikakuho_point_4_1.htm

労働安全衛生法とはどんな法律なのでしょうか。わかりやすいキーワードは次のようなものです。

「労働災害防止」「健康診断」「安全衛生教育」「安全衛生委員会」「安全管理者」「衛生管理者」「作業主任者」などなど

他にもたくさんありますが、一部を取り上げました。これらについて規定しているのが労働安全衛生法です。少しはイメージがつかめたのではないかと思います。

ここでは労働安全衛生法の第1条から、偽装請負の問題点を考えてみることにします。

労働安全衛生法に限らず、法律の第1条には目的が記載されています。これを目的条文といいます。目的条文である第1条をみてみます。労働安全衛生法の第1条は以下の通りです。

「この法律は、労働基準法と相まって、労働災害の防止のための危害防止基準の確立、責任体制の明確化及び自主的活動の促進の措置を講ずる等その防止に関する総合的計画的な対策を推進することにより職場における労働者の安全と健康を確保するとともに、快適な職場環境の形成を促進することを目的とする。 」

ちょっと長くてわかりにくいですね。そこで第1条の一部をピックアップしてみます。

「危害防止基準の確立」
「責任体制の明確化」
「自主的活動の促進」

これら3つのうちの1つである「責任体制の明確化」に着目します。さらに、第1条には

「労働者の安全と健康を確保する」

とあります。「責任体制の明確化」「労働者の安全と健康を確保する」の2つに着目し、これらをつなげて文章にしてみます。

「労働者の安全と健康を確保するために、責任体制を明確化しなければならない」

すなわち、

「労働者の安全と健康を確保するために、責任の所在を明確にしなければならない」

これが労働安全衛生法の目的の1つであると言うことができます。労働安全衛生法は、労働者ではなく事業者が責任を負うことを規定しています。では、労働安全衛生法上の責任を負うのがどこなのか、請負と派遣それぞれについてみることします。

通常の請負では、労働者に指揮命令をしているのは請負業者です。労働者に指揮命令をしている請負業者が責任を負います。労働者に指揮命令をしていない注文主は、責任を負いません。注文主は労働者に指揮命令をしていないので、注文者が責任を負わないのは当然といえます。

一方、派遣では、派遣元企業・派遣先企業の双方が責任を負います。労働者を雇用しているのは派遣元企業で、労働者に対して指揮命令をしているのは派遣先企業ですので、派遣元企業・派遣先企業の双方が責任を負うのは当然といえます。

派遣先企業・派遣元企業それぞれがどのような責任を負うのかは次のHPを参考にしてください。
http://www.occn.zaq.ne.jp/personel/rouki-aneihou.htm
松山社会保険労務士事務所 -
労働基準法・労働安全衛生法等の適用について派遣元・派遣先が責任を負う事項

労働安全衛生法の部分だけを見ても、派遣先企業が負わなければならない責任がたくさんあることがわかると思います。請負では、これらすべての責任を請負業者が負うことになり、注文主は責任を全く負いません。

労働安全衛生法上の責任を負うのがどこなのか、請負と派遣についてみてきました。では、偽装請負はどうなるのでしょうか。

請負であるとすれば、注文主は責任を負いません。しかし、労働者に指揮命令をしているのは注文主です。指揮命令をしているにもかかわらず責任を負わないというのは、明らかに問題です。指揮命令をしている以上、注文主も責任を当然に負うべきです。しかし、現状では請負という名目から注文主は責任を果たしていません。一方、請負業者は指揮命令をしないため、仕事の内容を把握するのは困難です。仕事の内容を把握できなければ、責任を果たすことは望めません。

以上から、偽装請負ではこのような状態になります。

「注文主は責任を負わない(負おうとしない)」
「請負業者は責任を負えない(負うことができない)」

偽装請負では、注文主も請負業者も責任を果たしていない、すなわち、責任の所在が明確にならないのです。責任の所在が明確にならない以上、労働者の安全と健康を確保することはできないと言わざるを得ません。

偽装請負は、労働者の安全と健康が確保できないことがわかったのではないかと思います。指揮命令はしたいのに労働安全衛生法上の責任は負わないというのでは、あまりにも無責任です。これでは労働者を保護することはできません。偽装請負問題を議論するときに、労働者を保護する視点を決して失ってはいけないのだろうと思います。


(2006.10.21 更新)
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